遠い存在

一旦会社に行ってから、と思っていたが時間の都合でなんば駅で落ち合い、京都へ行くことにした。
相手は10日前にカラオケに行った東京の友人Kさん。
「こんな人が上海で一緒に働いてくれたら仕事もやりやすいかもしれない。いつか誘ってみようか。いや、無理強いはよそう。」と日記に書いた人。

何とか話の糸口を見出して、上海の会社へ来てもらいたいと伝えたかったが、結果的にはそれとなく仄めかすだけで、できなかった。
私は自分自身の不甲斐なさにつくづく嫌気がさす。

来て欲しいのと違うのか。
一緒に仕事を手伝って欲しいのと違うのか。
それも、言葉が出来るからだけでなく、私がにらんだとおり、販売力もあり、協調性や判断力も持っているから、十分な戦力になるはずだ。
その人へもやりがいを与えることが出来るかもしれない。
でも、言うのをためらった。

行けば当分は帰れない。
貴重な人生の一定期間を、大切な時期を、私の都合だけで振り回してよいのだろうか。
勿論、「判断は私がします」とその人はいうだろう。
でも、私が強く示唆し、熱意を持って語れば語るほど、その人の判断を狂わせ、私寄りの結論を出させてしまい、あとで大きな後悔をさせることになりはしないか。

実のところ、今日一日付き合って、その人の人柄がよくわかった。
気配りのある、やさしい人だ。
そして何より明るいし、前向きで自信を持った人だ。
何かを成す力を持っている。
来て欲しい、とますます思うようになった。

でも、感触はよくなかった。
聞けない私の愚かさを察してか、接点を持つことに歓迎の意を表したが、私の希望からは遠いものであることを匂わせていた。
私は、大きな獲物を取り逃がしそうになっている漁師の心境だ。